あ、まずい。
と思った。
まずいまずいまずい！
考えないようにしていたのに、思い出してしまった！！
しょうがないので、ペンを持っていた手をやすめて、
テレビのあるリビングへ。もとはテレビなんて洒落たものはない家だったけど、
最近は置いてある。なんとビデオつきだ！
役者なんてやっているのに、しかも出ているのは舞台とかじゃなくて映画なのに
しかも子供もいるのに、テレビがないなんて信じられない！と何度も言われた。
でも買わなかった。
でも欲しくはならなかった。
だからなかった。見かねてくれようとした人もいたけれど、いつも丁重にお断りしていた。
いらなかったから。
でも最近はある。時々見る。
ヘンリーはテレビ番組なんかもちらほらと見ているようだった。
俺が見ているのは映画だけ。映画のビデオだけ。
がしょん、と妙な音を立ててビデオは陰部のような割れ目に吸い込まれる。
入れた途端に再生が開始される。日本製は働き者だ。テレビの中に会いたくなった人がいる。
会いたい人とは違う名前の人になっているけど。
何かしゃべっている。その人の声で。
「――――？」
その内容は、あまり聞いちゃいなかった。ただその人のか動く顔が見れて
その人がしゃべる声が聞ければ良かったから。
「会いたいなぁ……」
１度だけそう言った。画面の中の人は「そうだね」と言うようにちょっと笑った。（いかん……）
遠い遠い、海を隔てた向こうで、
同じようなことを考えた人もいて。
同じような行動をきっと取る。
それはたぶんいつものこと。