「まあまあまあ、デネソールさま、そういうこともあります……という話ですわよ？」
フィンドゥイラスの言葉も、デネソールにはあまり慰めとはならなかった。それほど酷く深くデネソールは落ち込んでいた。確かにこのところ忙しかった。婚礼の直後からばたばた仕事をしたくはなかったので、少し無理をした部分もあった。だからといって、その事実が今のデネソールに力を与えてくれるわけではなかった。
「気を落ち着けて……お茶でもいただきません？御酒ではないほうが良いと思いますわ」
フィンドゥイラスは寝間着を直しながら寝台から降りていった。
（ゴンドールに血痕公開の風習がなくて良かった……本当に良かったっ！）
泣きたい気持ちのデネソールは、色が変わるほど拳を握り締めながらそう考えた。こんな時にも世間体を気にしてしまうのが嫌だったがしかし、これは面子に関わる重大事なのだった。「さ、デネソールさま。これを飲んでやすみましょう。私もいろいろある１日だったのでくたびれましたわ」
フィンドゥイラスは湯気の立つ、いい香りの飲み物をデネソールにも持たせてそう言った。
「……ありがとう……すまんな、フィンドゥイラス……」
デネソールは力なくそう言った。
「何を言っておられますやら。私たちは『夫婦』になりましたのよ？急ぐことはありませんわ。仲ならもう、充分良いですけれどもね」
デネソールが、良い嫁をもらったと思うのはこれがはじめてだった。しかし、これが最後にはならないであろうことは明白だった。
「ご結婚おめでとうございます！デネソールさま、フィンドゥイラスさま！」
次の日、そう言われるたびにデネソールは肩身の狭い思いを味わうこととなった。隣にいたフィンドゥイラスが組んだ腕を、励ますようにゆすってくれなければどうなっていたことか。
「おめでとう存じます。デネソールさま、フィンドゥイラスさま」
ソロンギルにそう言われるのは、特に癪に障ったが、これもフィンドゥイラスに抓られることで、なんとか嫌味を繰り出すのを回避することが出来た。
「………まあ、仲良くやりなさい２人とも」
もしかしたら、笑っている？と言えなくもない、震えを秘めた口元でそう言うエクセリオンには、もしかして見破られているかもしれなかったが。