「やっちゃったね、あれは……」
「そのようですな……」
彼らの視線の先には、今にも踊りだすのではないかというような、傍目にもるんたった♪なアキレスがいた。
「成功したようだね、ご機嫌だね」
「まったくです」
「あんなにはしゃいでいるアキレス、はじめて見たよ……あ、歌いだした」
「私もここまでのご主人様を見たことは……」
エウドロスは言葉を濁した。一見頭に春風が吹きさしたかのような主人の姿に、こらえきれずに口元を押さえた。「ようっ！エウドロス！パトロクロス！いい天気だな！！」
「誠に……」
「本当だね、アキレス」
それで成功したの？どんなだった？とか言いそうなパトロクロスを、エウドロスは必死で止めた。聞きたくなかったからだった。
アキレスは次にはミュルミドンの皆に声をかけるべく行ってしまった。
「絶対に成功したね！」
「そうのようですね……」
いささかげんなりしながらエウドロスは答えた。浮名の多い主ではあったが、ここまで浮かれきっているのは見たことがなかった。その、人生初の体験をした主が、今後どのようになるのか、長いつきあいとはいえ見当がつかないからだった。