「こんなの読んでるのか？」
ベッドサイドに置かれた本のタイトルを読み取って、エリックは言った。
本があればタイトルを見てしまうのは、本好きのサガのようなもので、そうでなくてもベッドの中で全裸で横になっているエリックとしては、この間をなんとかしたくてしようがなかった。
「ああ短編集だから読みやすくて面白くていいって勧められたんでな」
なんだってこんなに落ち着いてやがんだ！とキレでしまいそうなほど、ブラッドはくつろぎきっていた。
第１ラウンドを終えたところで、ブラッドはベッドの中で半身を起こしてタバコなんかをふかしていた。エリックとしては、ちょっとこんちくしょうだった。
「面白い？」
「美味そうだ」
「へ？」
やっと汗が引いていなければ、こうまで敏感に察知できなかったかもしれなかった。それくらい、ブラッドの反応は自然で、本の感想のことでなければ、まったくおかしく感じたりはしなさそうだった。
「出てくるメシが美味そうなんだ」
そう言いながらブラッドは煙の元を吸っていたが、その顔はお世辞にも美味そうとは言えなかった。不味いのにどうしてそんな顔で吸ってるんだ？と聞いたらば、それは癖だと答えられた。
変なブラッド、とそのときにはまだ関係はただの『トモダチ』だった。「はぁそぉ……」
確かに出てくるものが美味しそうな話ってのはあるよな、料理の本とかじゃなくても、とエリックが納得していると、ブラッドはタバコを揉消して、なくなったタバコの口淋しさを紛らわすためのように、エリックの貝殻骨にくちづけた。
「ひゃっ！」
舐められた。
まさかブラッドがそう来るとは思っていなかったエリックは、文字通り飛びあがった。
「なななにするんだブラッド！」
「こっちのほうが美味そうだ」
「おやじな発言……」
「なんとでも」
ブラッドはさらに手を伸ばした布の掛けられている、エリックのさらなるひそみ目指して。
「どうして男も女も、前半身を隠すとそれで安心しちまうんだろうな？」
「知る、か……」
「後ろからするのに都合いいけどな」
くすくすとブラッドは笑った。ベッドはまた軋みはじめた。
なんとか一矢報いようと、考えながら考えられなくなっていく、エリックのＢＧＭのように。