「飲みすぎんなよー」
俺がそう言うとヒダルゴは「誰に向かって言ってるんだい？」という風にちらりとこっちを見た。
ははは、お見通しかい。でも俺だって酒は飲みすぎたことはあっても、水の飲みすぎはまだないぜ！
……大きくなってからは。
「さーて明日には追いつけるかなぁ」
またレースをひとつ終えて、今は郵便配達人だった。
なんだか知らないがこの手紙を偉い人に届ける仕事だった。
正直、軍のえらい奴なんて嫌いなんだが。
虫が好かないんだがこれも仕事だ。「あー星が良く見えるなー」
明日あたり雪が降るかもしれないな。空は青いから天気雪が。
積もる頃になると、レースもお届け人も店じまいだ。もっとあったかい方へ行かないと。
俺にもヒダルゴにも寒さ厳禁。雪はそんなに好きじゃない。
「お邪魔します」
河でたっぷり水を飲んできたヒダルゴの側に座った。寒くて、着込んだだけじゃどうにもならない。
ヒダルゴもまた、ちゃんと火の側にやって来る。
「おまえはあったかいなぁ……」
おまえもあったかいかい？俺がいたら、ほんのちょっとでもおまえもあったかいかな？「きれいだなー」
野育ちだから、目は良かった。
ガキの頃の友達は、もっとずっと良かったが。
空気を越えて、星を越えて。もっと先まで、もっと遠くまで。
それでも、現実世界のすべてを見通すことはしなかったけども。
あそこにあのままいたらどうなっていただろう？
こんななりでも、仲間だと言い張ってあそこで生活していたら？
「出来るわけないか……」
最初からスカな持ち札しかなかったカードゲームみたいなもんだ。俺は俺にしかなれない。
どうあがいても。「さて行くか」
よっこらしょと腰を上げると「行くかい？」とヒダルゴが尋ねてきた。
「いやな仕事ほどさっさとすませるに限るよ、相棒」
そう言うと、「それもそうだな」とヒダルゴが笑った。
おまえだけいればいいと思うのはこんな時だった。もう、この馬だけで――――。
「呼んだ……わけないよな？おまえなら小突くよな？」
「呼んでないよ」とヒダルゴは言った。
「気のせいか……いや『仕事』が俺を呼んでるのかな？」
冗談めかして笑いながら、火を消してほんの少し身支度をした。
この仕事が終わったら――――次は何をしよう？
そう思いながら、ヒダルゴを進めた。軍のえらい奴に、手紙を届けるために。