「ラスティさん、この手はいったい？」
「この手？ジャケットを脱がす手」
「服くらい自分で脱げますけど？」
「あ、やっぱり？でも俺も脱がしたいんだよね〜♪」
「鼻歌歌いながらベルト引き抜くの止めてくれます？」
「エリックが、髪の毛掴むの止めてくれたら考える」
「考えるだけか――――っ！？」
「し――、階下に聞こえるよ、エリック」
口に指を当ててそう言うと、嘘か誠か本当に黙るエリック。
しゃべらないために、口を手でおおちゃったりするエリック。
あんた本当に敏腕捜査官だったの？
敏感捜査官とか、うっかり捜査官の間違いじゃなくて？「今日が何の日だか知ってる？」
「今日？２月１４日だろ？」
「そう、バレンタイン・ディ。恋人達の日だよ、ハニー」
「…………どこから花が……」
「俺、手品師だから。ハイ、赤いバラ」
１輪だけだけれども。そのバラを、エリックの髪にさした。
「…………」
「何その冷たい視線！」
「ラスティわたしたちは……」
「『恋人』ってカテゴリに性別規定はなかったから」
にっこり笑って言うと、うっかり押されてしまうエリック。
「それはそうだろうけど、それは自明の理だからであって……」
口ごもりながらも、言いくるめられてくれるエリック。
その間にも、エリックの服を脱がしまくり。「ここがオーシャンの家だから、ベッドでするのは嫌なんだろう？招待されたのに、汚すと嫌だから」
「そう」
こっくりとエリックはうなずいた。
「だったらこれしかないだろう？」
いつの間にかバスルームのドアの敷居をまたいでいることに気づいて、エリックはびっくりしたようだった。
「これしか……って、ラスティ！？」
「バスルームなら、汚さない。終わったら流してしまえばいいだろう？」
「〜〜〜〜わたしの気持ちはっ！？」
ちょっとパニックになったような顔して抗議するところも、かわいいんだけどもね。
「嫌？」
こうしている間にも、どんどんバスルームの奥地に踏み入って、下がるエリックの足は、バスタブのふちにぶつかって止まった。
ゲストルームにまでちゃんと、バスルームのついているオーシャン邸にカンパイ！「嫌ってラスティ……ここは人様の家……」
「バスルームの、いい思い出を作らない？痛ててててっ！」
「どの口が言うかっ！」
「この口が」
追いつめて、キスをした。不意打ちに弱いのって、あんたの弱点だよね。
ついでにシャワーの栓をひねった。
「………うっ…」
「濡れたんだから、風呂に入ろう？……一緒に」
「バカ……」
「バカでーす」
「バカ……スキ……」
今度こそもっと深く落ち着いて。
「俺も。……大スキ」
キスをした。