「よし！！」
怪盗ナイト・フォックスは満足げに自分の『作品』を見渡した。
「上出来だ。きっと驚くぞ」
そのときのことを考えると、ぞくぞくした。
泥棒業も、そのスリルを楽しむためと言って良かった。
地位も金も顔もその他いろいろも充分にありあまっているナイト・フォックスにとって、世界は巨大な遊技場だった。
そして最近のお気に入りは。
「ふふふふふ……エリックの驚く顔が楽しみだ」
見るものもいないというのに、ナイト・フォックスはばさり、とマントをひるがえしてポーズを決めた。
やはり怪盗としては、白いマントは必須だよな、と深く満足しながら。
ラスベガスに来てからというもの、ジャパニメーションにハマっているナイト・フォックスなのだった。「よお！帰りに１杯やってかないか？」
「すみません……今日は寄るところがあるので……」
「あ〜あ、そういえばバレンタインが近いもんな、そういうことか！」
「若いってなぁいいなぁ」
「爺くさいこと言ってないで、おめぇも女房に花でも買ってたらどうだい？」
「そういうおまえこそ、さっさと恋人でも作れ！」
「なにおっ！！」
「それじゃお先に失礼します」
『ああ、またな！』「それにしても……１週間働いてたったこれだけとはな……」
職場のホテルからてくてく歩いて帰りながら、ひとりごちた。
「これじゃバラの１輪も買えやしない」
１ダースではなくて、１輪なのだ。念のため。
「しようがないな」
そう言って、携帯を取り出した。
「ああ、わたしだ。至急バラを用意して欲しい。ああ……１時間後に取りに行くので。もちろん、赤いバラを、血のように赤いものを」
携帯をしまいこんで、顔つきまでも変わったようで。
さっきまでホテルの窓を磨いていた男は、夜の街を急ぎ足で歩いていった。
「……何これ？」
「……バラの、花だよな？」
オーシャンの家から帰ってきて、ホテルのペントハウスのドアを開けてみたらば。
「……ラスティ？」
「……エリック？」
一面のバラの、花だったもので埋めつくされていた。
「まさか」
「だよな。だいたい、ずっと前からダニーのとこ行くって決まってたしなぁ」
これは掃除が大変だ、とちょっとうんざりしてしまう２人だった。
「カードがある。それと……狐のフィギュア」
「なんて書いてある？」
「『Ｔｈｉｎｋｉｎｇ ｏｆ you』だって……」「……提案がある、エリック」
「何？」
「今晩はホテルの部屋に泊まって、明日は業者にクリーニングを頼む」
「……そうしよっか」
すっかり疲れてしまったエリックも、めずらしくも贅沢な提案に同意した。
「そうと決まれば、降りるか」
「虫が湧いてないといいんだけどなぁ……」
「切り花だろうから……大丈夫だと思うんだが」
「さすが嫌がらせのケタが違うな」
「趣味人だから」
それだけじゃ多分、ないだろうけどね、とラスティは心の中で呟いた。
「ふふふふふ……隠しカメラの映像を回収するのが楽しみだなぁ。エリック、どんな顔して入って来たかな……？」
ご愁傷さま。