「今日はきのこたっぷりのトマトクリームシチューです！」
そう言うときのサムの顔は輝いていた。
まだぐらぐらと音を立てている寸胴鍋を、鍋にも負けないほど湯気を立てた笑顔で、サムは『今日のシチュー』を持ってきた。
シチュー作りはここのところのサムの日課だった。
「わーい！」
「やったぁ！」
「サム男前！」
「すごいぞサム！」
「わーいわーい！」
本来のそれは。
「すまないねサム、毎日毎日……」
おかげでフロドにも、大分肉が戻って来たようだった。
過酷なあの旅で、すっかり面やつれしてしまったフロドに思いっきり食べさせたい！というのが指輪棄却の旅の一方の功労者サムの最大の望みだった。なので、新王となったアラゴルンと、執政となったファラミアと、厨房を預かる者たちの無条件の計らいで、今サムは思う存分腕をふるうことが出来た。「何を言ってますだがフロドの旦那！さ、今日もたーんと食べてくだせぇ！」
嬉しそうなサムからフロドに手渡されたのは、どっかりともられたほこほこの湯気つきのシチューと、山盛りにパンの乗った籠、それからパンに塗る蜂蜜のつぼにバター皿だった。
「お飲み物はなんになさいますだか？」
「今はいいよ。でも、食後にお茶をもらおうか」
「いいですね！ここの水は、ホビット庄には負けますだがとてもおいしいのでお茶もおいしいくいれられるんです。食後には、果物を甘く煮たのがありますし。ちょこっと酒も入っているので体が温まりますよ！」
「そりゃあいい具合だ。サムもここで一緒に食べようよ」
「はい。それじゃあご免をこうむって」
フロドへの給仕が終わったら、好きに食べてもいいことになっているので、わーいわーいと人々はシチュー鍋に群がった。群がる人は、日に日に多くなっていくようだった。おかげで、味見くらいしか出来ない人多数。「ああ……おいしいものっていいねぇサムや」
「まったくです。ことにあったかいものなんてのは、身体に染み渡るような気がします」
ふうふう言いながら、シチューを口に運びながらフロドとサムは言った。
「水すらなかった頃を思い出すと嘘のようだよ」
「まったくですだ。おらもやっとこの頃、水で皿を洗うことに馴れましただ」
「わたしもやっと水で顔を洗うことにためらいがなくなったよ」
「洗濯をするのにもですよね！」
「いやいやまったく。軽く焼いたパンっていうのはなんておいしいんだろうねぇ、サム」
「その通りですだ、フロドの旦那。蜂蜜が美味いってことは前から知ってたつもりですだが、こんなにまで美味いとは思いませんでした」
「食べるものがあるだけでありがたいけれど、それがさらに美味しく感じるってなんていいことなんだろう」「まったくです、フロドの旦那。お代わりはいかがです？」
「まだあるのかい？あるのなら、そうだね半分ほど欲しいな」
「ちゃーんと旦那のお代わり用は別にしてあるんです！」
ほら、と得意げに差し出した鍋は、あの旅の折りに、ずっとサムが持っていたものと似ていた。
「おや、懐かしい鍋に似ているね」
「でしょう？ささ、どんどん召し上がってくだせえフロドの旦那」
「あの時のシチューは、結局一口も食べられなかったからねぇ」
「兎の肉が手に入ったら、また作りますよ」
『じゃがいもをたっぷりと入れて！』
揃って声を上げて、揃って笑いあった。
シチューの湯気と、人いきれと。
おいしいまひるまの、たのしいしょくじどき。