「さ、そこに横になって！」
シャワーを浴びて、それ以外のアレコレも済ませてほこほこと湯気を出しながら部屋に戻ると、ブラッドは問答無用でソファベッドに押し倒された。
押し倒されたといっても、色っぽい意味がないのは明白で、それが証拠にエリックはぐいぐいと肩を押しはじめた。
「な、な、ナニ？」
うつぶせ寝になったブラッドの肩を、そっと、でも確実に凝る部分を押しているのはさすがだった。さっきもまれているうちに、ツボ部分や、どこが凝っていて、どこを揉まれると利くのかを、エリックはすっかりマスターしているようだった。力加減も丁度良かった。もう少し力を込めてくれてもいいくらいだった。
「今度は俺がブラッドを揉んでやるから！」
案の定ものすごくありがた迷惑なことをエリックは言った。
「いや俺は……」
「まあまあまあ、下手だと思うけど」
そう言いながらもエリックはブラッドの肩から背中にかけてを揉みほぐしていった。
毎日の撮影で使っている筋肉だ。揉まれるとこんなに凝っていたのか！とびっくりするくらい気持ちがいい。おまけに揉む人が揉む人なもんで、それがまた。「お客さんどうですか〜？」
かなりはんにゃりとなってクッションに懐いているブラッドに、エリックはそう尋ねた。
「いい気持ちだ……エリック上手いな」
本当に初心者？と言うと、エリックは嬉しそうに笑った。
背中に腰にと、およそ身体の中で使っていない部分はない。だからどこを揉まれても気持ちよかった。
でも、腰から足に移動するあたりでストップをかけるべきだった。くすぐったがりだとかなんとか、理由ならいくらでもあったのに、つい気持ちよさに負けて。エリックの手に負けて。
「あ、本当だ。この辺すごく凝ってる」
「うー」
気持ちいいのは、純粋にマッサージが気持ちいいのかと思っていたら。
「それじゃブラッド上向いてくれる？」
「あー」
それでごろんと仰向けになって。「………ブラッド」
「あ？」
「…………えーとそのー」
「うん？……うわっっ！」
ついさっき、止むに止まれぬ事情を、バスルームで処理したばかりだっていうのに。
なんて元気な。
「わわわっ！！痛っ！！」
あせるあまり、ついぶん殴ってしまった。もちろん遠慮なく。
するとつまり、それまでの天国から、文字通り地獄にまっしぐらなわけで。
「〜〜〜〜〜〜っ！！」
「ブ、ブラッド！大丈夫か！？」
答えられなかった。被害箇所をおさえて、顔も何もかも隠そうとうつぶせになるのが精一杯で。
おたおたはするものの、どうにも出来ないのが分かっているエリックも大慌てで。
ああ、エリックすまん。やっぱり素人がうかつにマッサージなんてするべきじゃなかったよと。
反省することしきりのブラッドなのだった。