Premere in Copenhagen
「コペンハーゲンで会わないか？」
と言ってきたのはヴィゴの方だった。
「プレミアに出るんだよ。サーと一緒に。女王陛下もお見えになるってのにメインキャストがまったく来ないんじゃ失礼になるだろう？モロッコからなら、わりと近いし、父の郷里でおれにとっても田舎だからね。それで白羽の矢が立ったわけだ」
いよいよ真冬になろうというこの時期に何故北欧、何故コペン？という疑問にはそう答えた。
「プレミア自体は１６日だから、前日から入ることになっているんだ。日曜日なら、芝居は休みだろう？タイトルロールくん」
何もかもお見通しなのだった。もっとも、英国の芝居で、安息日たる日曜にやっているものなどない。
「調べたんだ。えーと、ロンドンからなら、数時間で来られるよな？同じヨーロッパ内なんだから」
それで万が一にも嫌だなどとは。
「クリスマスにも会えそうもない『恋人』が頼んでいるんだから、ひとっ飛び来てくれるだろう？」
口が裂けていても言えなかった。
「なあ、ビーン・ボーイ？マイダーリン？」
おかげでクリスマスの買い物を、平日に大急ぎでするハメになろうとも！
ロビーを出ると、手を振ってヴィゴがそこにいた。
「――――こんなところにいて、大丈夫なのか？」
「何が？空港だぜ？世界で１，２を争って安全な場所だろう？」
「そうじゃなくて。ファンが……」
「ご心配なく」
にっこり笑われて、頬をぴたぴたとはたかれてはもう、何も言えない。
「これでも『ウェルカム！ショーン・ビーン！』ってボードを持って出迎えるのは我慢したんだがな」
その誠意が伝わらなかったか、とぶつぶつされても、信憑性がないことおびただしい。もしかしたら「そのほうがマシだった！」と天を仰ぐことになりかねないのがヴィゴ・モーテンセンだ。
「ひるは？食ってるわけないか、この時間だからな」
「ああ、機内で軽食は出たがね」
「BAの食事はどうだい？あそこはまだ食べたことはないんだ。VAのはなかなかだったが……」
「うーん、寝ぼけてたからなぁ」空港から移動する時間も惜しいから、とそのまま目に付いたレストランに入った。
「以前の空港なら、もう少しくわしかったんだがな。大規模改修してからはとんと分からなくなった」
そう言って、日当たりのいい窓辺に座って、笑う。それをどうしても、これかぎり、とでもいうように見てしまう。どれくらいぶり？誕生日以来？もうすぐ２ヶ月にもなる。
「空港内のショップでバイトしたこともあったんだ。あの頃なら、すみずみまでよく知っていたんだがな。そりゃあもうすみずみまで」
曰くありげに目を細める。かと思うと、丈の高い、華奢なテーブルの下のつま先で、ズボンの裾に侵入を図る。
「ちょっとくらいならナニか出来る場所も知っていたのに」
「ヴィゴ！」
「まったく残念だ」
すました顔でやって来たサラダを受け取る。「今、ヘンリーと『野菜を取りましょう』キャンペーン中なんだ」と言いながら。「舞台が延びたんだってな」
「おかげさまでね」
「如才ない答えをありがとう、ビーン・ボーイ」
「じゃあ正直に言おう。飛び上がるほど嬉しいよ！」
「正直でよろしい」
「そっちこそ撮影が延びそうだって？」
「まあよくある話さ」
「それもそうか」
次々やってくる料理を、ゆっくりと愉しんで食べる。「それにしても人生なんてのは分からないもんだねショーン」
「なんだい藪から棒に」
「この俺がだよ？女王陛下と一緒に観る映画に、出演者として出席するとはね！親戚連中も驚いてたよ。喜んでもいたけど」
「そりゃあそうだろう」
あたりさわりのないことを言いながらも、その最大規模の『ワカラナイコト』は目の前にいるねと一人ごちた。
食事が済んで、食後の一服を済ませてまでも長居は出来ない。いったん店を出た。
さて、このあとどうする？と聞こうと思ったときにはヴィゴは腕時計を眺めていた。
「ヴィゴ？このあとどうする？」
「どうしようか、ショーン」
時計から目を上げてにやりと笑う。命を賭けてもいい。こういうときのヴィゴは何かをたくらんでいて、しかもそれを隠そうとしていない。
時計は２時すこしすぎを差していた。「ヴィーゴ」
「なんだい？ショーン」
「たくらみがあるなら早く言ったほうがいい。しめあげて「白状しないか！？」とやりたくならないうちにね」
「そうだな。じゃあバラすとするか。帰りの便は確か６時過ぎだったはずだよな？」
「ああ」
「BAの最終便。チェックインはさっき済ませていたよな？」
「ああ。予約とリコンファームを同時にしたのは初めてだったがね」
「あと、４時間ある。ショーン、実はホテルに部屋を取ってあるんだが。なんて言うとスケベ親父丸出しかな？どう思う？」
「ホテルって、ヴィゴ……」
「この空港はとても便利な立地でね。ヒルトンが隣接しているんだ。アメリカ資本のホテルはヨーロピアンにはお気に召さないかな？」
「ヴィーゴ！」
「さあ、どうする？ショーン・ビーン？」
「ああもうまったく！」
答えなんて。
「ふふん？」
聞くまでもないだろう？
わたくし流プレミア話（笑）。
プレミア行脚がスタートする前はロンドンかパリでの話しを、
と思っていたのに、ハニーったらどっちにも出席しないんですもの〜！（＞＜）
ところで今はいい時代ですね。
ネットで簡単に飛行機の時刻表や空港情報が調べられるんですから♪（笑）
この話は、プレミア話を書き渋ってらしたまさとさんに謹んで捧ぐ。
書いてね、まさとさん♪（笑）