聞きたいことはただひとつ |
拾弐 |
「……っ……っつ！」
ボロミアはわりによく耐えた。
それは夫婦生活が営まれていたときには、それ相応の交情があったが、最近までアラゴルンは身重だった。そして産後の時期には男になってしまった。戻ってしまった、というべきか。ともあれそれで良かったのは、産後の回復が飛躍的に早かったことだった。あまりといえばあまりの驚きに、本人もそれどころではなくなってしまったせいもあったかもしれないが。
驚き嘆き、打ち沈んではいたものの、身体自体の回復は早かった。あいにく赤子の世話も出来なかったし。身体の回復は、本来ならば大変目出度いことなのだが、それはつまり、ボロミアの禁欲生活が長くなってしまったということに他ならないということでもあった。
望めばいくらでも艶福家たりえる立場条件を備えていながら、ボロミアはあまりそういう誘惑事実に興味はなかった。あるのはただアラゴルンのことだけだったし、それに妊娠中とてまったく何も出来なかったわけではなかった。しかし、懐妊前のように、みっちりと出来るというわけでもなかった。もちろんお産が済んでもしばらくの間おあずけになるのは分かっていたが、それでも何もなければあるいは今頃は。
それがまったくもって許しがたいことに呪いの移行などという非常識にあって、さらなる禁欲生活を余儀なくさせられていたのだった。
先日、アラゴルンを暴力で犯す以外は。それにあれは、厳密に言えば単なる逐情であって、夫婦間の交情というには程遠かった。
埒のひとつも開けることは開けられたが、どちらかというと殴る蹴るに近く、喧嘩のようなものだった。少なくともアラゴルンはそう思っていた。打ったり蹴ったりするようなもの、と。つまりそれくらいボロミアは怒っていたのだ、と、そういう風に認識していたのだった。
「……っ……っ！」
懸命に呻きをこらえながらボロミアはアラゴルンの奉仕を受けていた。何が楽しいのかアラゴルンは蹂躙まがいのことを仕掛けてボロミアを翻弄していた。両手の拘束などもそのひとつで、ボロミアは何一つ手出しを許されなかった。アラゴルンに含まれて、ボロミアは久しぶりの愉悦に流されまいと必死だった。
「青筋が立っているようだなまるで……」
かわいい、とアラゴルンは口は離したものの、指先でなぞりながらそう言った。含まれていた部分が外気に触れて冷やりとした。その感覚で、ボロミアは少ししゃっきりした。きっとすぐに元の木阿弥になることだろうけれど。
「こんなにじっくり見るのは初めてかもしれないな……」
そう呟きながら、またアラゴルンは大きく口を開けた。その顔を見たのが最後だった。ボロミアは新たな刺激に耐え切れず、目を閉じてしまったからだった。あまり、見ていたくもなかった。もうすぐ臨界を迎えてしまいそうな己のものを一心不乱にあやしているアラゴルンというものを。アラゴルンにそれをしてもらうのがまったく初めてというわけではなったが、男の時のアラゴルンとの経験はこれがやっと２度目、しかも１度目などはそれこそ立派な強姦であったからにして、初めても同然なのだった。しかもどういうわけか、これがボロミアも同じ男であるせいか、男のアラゴルンにしてもらうほうが、不敬というか畏れ多い気がしてしまうのは何故だろう？と、ボロミアは一生懸命よそ事を考えようとした。その時。
「アラゴルン！？」
アラゴルンの舌はなんと、その奥にまで到達した。
「アラゴルンっ！！」
不自由な身体ながら、ボロミアはなんとかアラゴルンと止めようともがいた。しかし、拘束された身で何が出来ようか？しかもアラゴルンを傷つけるわけにはいかないのだ。精一杯自由になる足で、じたじたするしかなかった。アラゴルンは何も言わない。無言でボロミアの秘所を舐めねぶっていた。
「ア、ラ…ゴル……ン……」
痛みはもちろんなかった。感触そのものよりも、アラゴルンにその場所を、と思うとたまらなかった。アラゴルンは舌やくちびるのみならず、指をも使ってボロミアの秘所を検分していた。その背徳的な気分が、またさらにボロミア自身を高揚させる結果となり――――。物事には常に終わりが来る、その時のボロミアもそうだった。少しでも持ちこたえようとこらえはしたがやがて心地良い虚脱の時を迎えた。
「――――っあっ……」
腹がもう、波打っているなどというものではなかった。意識と身体がつながらず、どこか遠くへ行ってしまったような気がした。戻ってくるのには、それは時間がかかったような気もしたが、おそらく気のせいなのだろう。飛び出したものは、一部アラゴルンにかかったはずだった。しかしその後はアラゴルンに咥えられ吸い上げられるように最後の一滴まで搾り取られた。
アラゴルンの、嚥下の音が鼓膜に響いたので、意識がはっきりしたのだから。こっくん、という音を、もしかしたらアラゴルンはわざと立てたのかもしれなかった。口元を、ボロミアに見えるようにしていたことも。それから、ボロミアの心臓を鷲掴みにするような蠱惑的なまなざしで見上げてきた。たった今埒をあけたばかりのものが、またぞろ蠢きだしそうなくらいだった。
「元気だな、ボロミア」
嬉しそうに笑わないでもらいたかった。その笑顔も――――ボロミアの心臓を、特に念入りに直撃するものなのだから。アラゴルンは笑みを浮かべたまま身を乗り上げてきた。そのままボロミアの顔をうっとりと眺めていた。「……楽しそうだな、アラゴルン」
「楽しいぞ、とても」
アラゴルンはまた魅惑的に笑うと、ボロミアにくちづけた。ねっとりと覆いかぶさるようにしてボロミアに喰らいつくように。まずくちびるでボロミアを圧し、歯を痛まぬ程度にぶつけ、舌をそれは注意深く奥くまで滑らせていった。ボロミアの舌を絡めとり、触れるか触れないかというほどの加減で咥内をなぞり、息を吹き込んだ。
舌を息を吸い、くちびるで愛撫し、アラゴルンはそれは丁寧にボロミアの口を犯した。だ、ものだから、アラゴルンが啄ばむようにしながらもくちびるを離したときには、惜しむ気持ちばかりがあったくらいだった。
「どうだ？」
「……え？」
くちづけの感想を聞かれたのなら、最高以外の答えはないのだが……と、骨抜きにされた状態のボロミアはぼんやりと考えた。
「自分のものの味はどうだ？」
よくよく見ると、アラゴルンはたいそう人の悪い笑みを浮かべていた。そういえばアラゴルンはボロミアのものを咥えて、そのままだったことに気がついた。「アラゴルン……」
「ん？」
ボロミアの上に寝そべったような格好になっているアラゴルンは嬉しそうに楽しそうに笑っていた。
「……つまりとても楽しいわけだな？」
「ご名答」
もう一度、ちゅっ、と軽い音をたててアラゴルンはボロミアにくちづけた。それから。
「もっと楽しくしようと思うんだが……ボロミア？」
「なんだ？」
アラゴルンはボロミアの上に起き上がっていた。その眺めは、ボロミアにはたいそう目に楽しいものだった。ボロミアは手が出せなかったので、まだ完全に着衣はほどけてはいなかったが、しどけなくはだけてはいた。ところどころのぞく肌は、なまじすべてが見えるよりもずっと扇情的だった。
ま、そのうち全裸の方が良くなるに決まっていたが。「手の拘束をほどくけど……悪さをしないと約束してくれるか？」
アラゴルンは今度は、幼子のような目をしてボロミアにそう尋ねた。どんな願いでも、駄目な親丸出しで受け入れてしまいそうな姿だった。半裸で、男に跨っているのでなければ。
「『悪さ』の種類によるが」
そう言いつつも、ボロミアもたいていのことならアラゴルンの言いつけを聞くつもりだった。とりあえず手が自由になったら、アラゴルンを抱きしめることも出来る。どんな自由よりもそれは、素晴らしいことのように思えた。
「ボロミアは手を出さないで欲しいんだ」
「――――手を自由にしておいてか？それはちょっと……自信がないな」
「何もするなというのではなくて……わたしがこうしろという以外のことはしないで欲しいんだ」
この願いを、あんたは聞いてくれるだろうか？と無心そうな目で至近距離でのぞきこまれて、それで頷かない男がいたらそれは木石で出来ているに違いない、とボロミアは思った。自分は深く固く頷きながら。
「ここを……それからここも……」
アラゴルンはボロミアの手をほどくと、自分の望む場所に導いた。それはそのままボロミアの望みでもあったので、ボロミアは嬉々としてその先導に従った。
「あっ………」
やはりボロミアの手で触ってもらわないとつまらないから、と言ってアラゴルンはボロミアの腕をほどいた。ずっと身体の下になっていた腕はすっかりしびれてしまっていて、宣言どおりにアラゴルンがさすってくれた。残念なことには、「ボロミアの手には違いないから」とボロミアの感覚が戻らないのにはおかまいなしに咥えたり弄んだりしたことだけだった。
「ん………あ…、あ……っ」
アラゴルンはボロミアの手を自分の胸の飾りに導くと、自分の手でボロミアの手を取って、ここを、というように摘み、押しつぶし、撫でさせた。
「あ……ん………ボ…ロミ、ア……」
男だから、声が変かもしれないけどなるべく気にしないでくれ、どうすることも出来ないのだから、とアラゴルンは宣言していた。宣言したことで安心したのか、思い切り声を出していた。ボロミアのもう片方の手は、アラゴルンの腰にあった。腰骨の辺りや体側、足の付け根などを撫ぜられるとそういえばくすたがっていたものだっけ、とそれほどの昔ではないのに、ボロミアは懐かしんだ。懐かしんで、いっそう励んだ。くすぐったいということは、すなわちそこが感じるということだ。前回の罪滅ぼしの意味も込めて、今まで一度も出来なかったことにボロミアは専念した。
出会ったときの性別のアラゴルンには出来なかったことを。
実のところボロミアは、アラゴルンのものに触れてみたくてならなかったのだが、それは許されなかった。前回はアラゴルンを悦ばせようなどとは考えもしないようなひどいやり方をしてしまったし、それ以前にここのところ、あまりになおざりにしかアラゴルンに触れられてはいなかった。男の身体をしていても女の身体をしていてもいいから、もっとアラゴルンを感じたくして仕方なかった。
「あ……へ、ん…な…感じだな……ボ、…ろみあ……っ」
アラゴルンが陶然とそういった時、ボロミアは当のアラゴルンに見惚れていて、反応が遅れそうになった。
「何が、だ……？」
好むところに触れられないのならせめて、アラゴルンの望む場所を、望んだ以上にと指を手を動かしながら。「変、…だ……胸が尖らない」
「こんなになっているのにか？」
聞きながらボロミアは、思わず笑みがもれた。ボロミアはこりこりになっているそれを、よりいっそうの細心さをもって摘んだ。
「濡れない……し…、……あ………はっ…」
「それはある、な……多少は……」
実は代わりのものもあるにはあるが、そんな詳しい身体事情は、この忙しいときにあまりふさわしいとも思えなかった。望むなら、今度ゆっくりとボロミアは思った。覚悟を決めて。
「アラゴルン……そろそろ……？」
どうぞ、というつもりでボロミアは腰を浮かせた。力が入らなかったので、たいして上がりはしなかったが。アラゴルンは悦に入った顔をきょとんとさせて、それからボロミアをじっと見つめた。
「いいのか……？」
「ああ」
ボロミアはかつてこれほどの決心をしたことはないような気分になって、重々しく頷いた。アラゴルンはらしくもないことによいしょ、とかなんとか呟きながら身をずらし、ボロミアの足を抱えあげた。観念してボロミアが目を閉じるのを待って、アラゴルンは行動を開始した。「グロールフィンデルからいいものをもらったんだ」
アラゴルンの声は弾んでいた。ボロミアは、せめてそれを喜ぼう、とますます固く目をつむった。何か、油のようなぬるりとした感触のものがボロミアの腹にかかった。それがやがては……と思ってボロミアは、努めて腹の力を抜こうとした。アラゴルンの手が、つとボロミア自身に伸びた、と思う間もなく包まれた。アラゴルン自身によって。
「あ、らごる…ん？」
「ん？」
「あの…なにを……？」
「ん？今忙しいんだ……あとにして……もっ………っごい、…てっ…」
そう言って、アラゴルンはボロミアの上に跨りなおした格好で、腰をひねった。
「アラゴルン……もしかして……馬鹿だろう……？」
「あんたに、言われたく……な…い…っ！あっ……ごぃっ……あっ…」アラゴルンはかなり手の込んだことをしでかした。
ボロミアを観念させておきながら、結局はまたボロミアを喜ばせた。
「相手の……ことを……好いているの、…が…自分だけだと……ったら大間違いだぞ、ボ…ロミ…ア……」
最初は咎め立てるように、しかし仕舞いには蕩けるようにアラゴルンは言った。本来ならば濡れるはずのないアラゴルンの内部は、先程のグロールフィンデルからもらったとかいう何かなのだろう、滑りもよくなっていた。しかし、アラゴルンの秘所に招き入れられたボロミアをもっとも愉悦を感じさせたのは、その滑らかさや熱さしめつけもさることながら、アラゴルンのその動きだった。
「あっ……あぁ……っ」
アラゴルンは軽く後ろで縛ってある髪を振り乱しながら、全身でボロミアを感じていた。考えてみるまでもなく。こんな風に相手を心ゆくまで感じさせ、自分も味わい尽くそうというようにすることなど久しぶりのことだった。
「アラゴルン……？」
本当に、感じているのが快感なのか、無粋を承知でボロミアは聞きたくなった。今のアラゴルン様子を見れば、他に何があろうとも思えなかったが、それでも言葉にして聞いてみたかった。「どうだ……？」
ん？というように、アラゴルンは首を傾げた。何を聞かれているのか、その意味がよく分からないようだった。
「……痛みは……しないか？苦しくは、ないか？」
アラゴルンの手の導きがなくなっていても、ボロミアは今は自主的にアラゴルンの腰をしっかりと支えていた。ともすれば力が入りすぎてしまいそうになるのを、懸命に戒めながら。アラゴルンは首を振った。髪がそれにつられる。
そうして見ていると、女性だった頃と何の変わりもないようにも思われるが、腰に手を置く感触は、確かに女性のまろみではないのだった。
しかし。
「どうし……て？」
いっそあどけなく聞くアラゴルンのその無心な様子に、ボロミアはと胸をつかれた。
「ボロミアはこの上なくやさしいのに」
アラゴルンは伸び上がり目を閉じてから、ボロミアにくちづけた。「……ボロミア」
申し訳程度にくちびるを離してアラゴルンは囁いた。
そのアラゴルンを、ボロミアは抱きしめたくてしようがなくなった。そうしてもいいのだろうかと迷いながらボロミアはアラゴルンの腕に触れた。
「ボロミア……」
アラゴルンが話しやすいようにとボロミアは言い出しかねる口元に何度もくちづけを贈った。ゆっくりと律動を送りつづけることも忘れずに。アラゴルンは時々呻きにも似た息を吐きながら、切なそうに身をよじった。
「ボロミ…ア……あ…っ……ん…」
「アラゴルン……」
「ボロミア……」
アラゴルンは繰り返した。しかしそれは、愛しさにかられてのことではなく、やはり何か言いたいことがあるように思えてならなかった。せかすことはしたくなかったので、ボロミアはしんぼう強くアラゴルンが口を開くのを待った。「ボロミア………て、…る……ぁ……？」
よく聞き取れなかったので、ボロミアはアラゴルンの口元に耳を寄せた。
それでもしばらくはアラゴルンの息しか拾えなかった。
「言ってくれ、アラゴルン」
何を言われても、驚かないから、とボロミアが重ねて問えば。
「ボロミ、ア……わた、し…を……」
アラゴルンはためらっているのか、言葉を上手く紡げないのかなかなか言おうとはしなかった。
何度も何度も息を吸い、唇を舐めるかすかな音だけがボロミアの耳元でしていた。
「うん？」
「わたしを、あいして、い…る……？」
「……エルロンドさま」
「……何かな？グロールフィンデル」
午後のイシリエンの、屋外の風に吹かれながら長いこと中つ国で苦楽をともにしたエルフの２人連れは、小高い丘のてっぺんに並んで座っていた。エルフ同士のこととで、なみの人間のように声高に話す必要はなかった。
なかったがしかし、それにしても力なく囁き交わしていた。
「……エステルの育て方を、間違ったのではないかと思うことはありませんか……？」
グロールフィンデルがしみじみと遠くを眺める目で言うのを受けて、エルロンドはふっと笑った。
「……そんなの何度もだよ………」
と、言うわけで、アラゴルンはボロミアに甘いという話でした〜♪（違）
今回「こ、こんなにノリノリと楽しく書けちゃっていいのだろうか……？
（凝っと手を見る。手のひらは何も語ってはくれなんだ……）
いいんだ！楽しいんだから！！」と書きました（笑）。
心配なのは、読んでいるアナタがお間違えになりゃしないかということね……。
気をつけてはみたんだけど……。
こ、乞うご期待っ！？（ドキドキ）